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リレーエッセイ 2024・春
北海道産昆布の多様性  1/2
出汁昆布と食べる昆布

商店やスーパーの乾物売り場へ行くとさまざまな種類の昆布商品を見ることができます(図1)。ほとんどは板状または棒状で、真昆布や利尻昆布、羅臼昆布や日高昆布、などさまざまあり、購入する際にどれを選んだらよいのか迷うのではないでしょうか。通常、よく見られるこれらの昆布のうち、真昆布と利尻昆布、羅臼昆布はいずれも “うま味成分” であるグルタミン酸が豊富な出汁用の昆布ですが、その最適な料理メニューは異なります -もちろん好みもあり、どの昆布をどの料理に使っても美味しいのですが-。

図3.北海道の朝市で売られている多様な昆布商品
図1 北海道の朝市で売られている多様な昆布商品

真昆布の出汁は上品な甘みがあり、”おすまし” に向いています。利尻昆布もくせがなく上品で、鍋出汁の素材として有用なほか、特に利尻島産や礼文島産のものは島物(シマモノ)と呼ばれ、透明な出汁は塩味があって京料理椀物の一番だしとして最適です。羅臼昆布はコクのある濃い出汁が特徴であり、液が黄色味を帯びていることからも ”おすまし” というよりは麺料理の出汁として重宝されています。一方、日高昆布は繊維質が柔らかく食べる昆布として知られています。おでんや昆布巻きなど広く使われていますが、出汁昆布としても優秀で、その使いやすさから“万能昆布”として知られています。皆さんのなかで、この昆布を台所に常備しているご家庭も多いことでしょう。

* 一般的に、生物として扱うときは“コンブ”とカタカナで、製品原料として扱うときは“こんぶ”とひらがなで、商品として扱うときは“昆布”と漢字で表記します。

それぞれの存在価値

ところで、“長昆布”という昆布をご覧になったことはあるでしょうか。この商品になるナガコンブは全長が15mほどにもなり、北海道で採れるコンブのなかで天然漁獲量が最も多い種です。本種は北海道の釧路地方や根室地方の太平洋沿岸や、北方領土の沿岸に生えており、夏に道東を訪れた際に浜一面にこのコンブが並べられる圧巻の乾燥風景に感動した人も多いのではないでしょうか。このコンブには、本格漁期の前に若い個体を採取する“さおまえ昆布漁”というのがあるのですが、漁の様子は北海道において毎年ニュースで報じられ、それを目にすると道内に暮らす人たちは夏の到来を感じます(図2)。長昆布はうま味成分が少なく出汁用には向かないとされ -生産地ではこれからも出汁を取っており、その味は決して悪くはありません-、出汁用昆布の販売が主な商店やスーパーでは見る機会は少ないのですが、昆布巻きや佃煮、塩昆布などの加工品として私たちは多くを食しているのです。

さおまえこんぶの乾燥風景
さおまえ昆布商品
図2 さおまえこんぶの乾燥風景(左)と、さおまえ昆布商品(右)
こんぶをたくさん食べる習慣がある沖縄では多くのさおまえ昆布が売られている

以前、テレビ番組で道東のある地域の長昆布を取り上げることになり、その取材で「この昆布は大きく育ったものなので高級ですよね?」と尋ねられました。「いえ、出汁用昆布などと比べると価格は・・・」と答えると、取材スタッフは不満そうな様子です。そこで、「値段は高くないかもしれませんが、天然で最も多く採られているコンブの商品であり、私たちの日常の食卓に欠かせないものなのです。価値は価格ではありません!」と言うとようやく納得の表情が得られました。北海道にはいろいろなコンブが生えていますが、それぞれがオンリー・ワンであり、大きな存在価値があるのです。

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