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産地を追って no.11 気になる新のりの生産課題

【平成25年9月20日執筆、9月26日掲載】

1 熱暑の中で、新のり準備始まる

今年4月に全国ののり生産が終わり、5月始めに最終のり入札会が終わりましたが、宮城県では、8月23日から新のりの採苗(種付け)作業が始まりました。

今年の夏は異常な暑さで、海水温はぬるま湯のようになっていました。しかも、日本海側を中心に豪雨が襲い、太平洋側の西日本地区はまるで熱帯にでもなったような気温が続き、雨も局地的な豪雨で、全体に満遍なく水分を補給する気象ではありませんでした。一方東日本地区の太平洋側は部分的な豪雨が見られましたが、日本海側の豪雨被害ほどの影響は受けず、特に宮城県の産地ではほぼ平年並で推移しました。

8月12日と13日の両日、宮城県の気仙沼から七ヶ浜まで、昨年は9月初旬に新のり準備中であった各産地がどこまで復旧しているのか取材を行いました。前年度は、七ヶ浜も矢本も加工場の整備が遅れ、予定より一月余り遅れて漁期がスタートしましたが、年明けからはほぼ順調な生産が続き、宮城県全体では、震災被害前の生産量の50%近くまで達しました。

昨年9月と今年8月の産地の状況を取材写真で比較してみました。

写真左が平成24年9月8日の状態、写真右が平成25年8月12日での状態です。昨年建設中だった加工場は出来上がって乾のりを製造出来る状態になっていますが、漁港の方は鉄板の基盤が出来た程度で、まだ工事途中の状態です。

取材時点で平成23年3月の被災から2年半になろうとしていましたが、都市部の大きな漁港はある程度整備されましたが、地方産地の漁港は復旧までまだ時間が掛かりそうな状態でした。のりに限らず、わかめ、かきの産地は沿岸に点在しています。大きな漁船が出入りすることはありませんが、生産時期には朝晩ひっきりなしに漁港に出入りします。漁船を岸壁からわずかに離して係留しながら収穫(獲)物の荷卸をしなければならない状態です。一歩足を踏み外すと大変な事故になりかねません。

写真左は平成24年9月8日の矢本漁協事務所の姿です。まだ津波に襲われた姿のままでした。写真右は平成25年8月13日の姿で、すでに組合事務所の内部は新しくなっており、事務所横に採苗用の水車が2基並んでいました。

写真左は平成24年9月8日の様子。矢本地区協同のり製造工場の建設が始まっていました。写真右は平成25年8月13日の様子で、既に完成した姿です。24年度漁期は25年に入ってから少しづつ操業出来たという事でした。

8月12日に七ヶ浜地区を訪れましたが、新しい協同工場の横で、平成25年度新養殖の準備が始まっていました。

採苗のための重ね網作業(写真右)が行なわれていました。8月20日頃から、重ねた網を鉄輪の水車に巻きつけて、のり種が潜り込んでいるカキ殻を水槽に入れ、のり種をカキ殻から放出させ、のり網に付着させる作業が始まりました。

9月15日~16日に東海地区から関東、東北へ抜けた大型台風18号の影響も採病の準備中であったため海中施設に被害を及ぼす状態ではなかったようです。宮城県下の採苗は9月20日頃から始まる予定です。

台風一過で気温も下がり、波が立ち海水の上下変動が激しかったため、養殖漁場でののりが育つ条件としては悪くないようです。日中の水温も23℃~24℃ですが、朝夕の気温は下がっていますので、20日頃から始まるのり養殖のスタートとしては、まずまずの海況のようです。

一方、三重県、愛知県、千葉県など18号台風の通過地区はのり養殖準備中で、千葉県や三重県の一部漁場では建て込んだのり網を支える支柱が斜めになる状態が見られましたが、主として陸上での準備中であったため、養殖開始に影響を与えることはなかったようです。

千葉県では13日~17日に掛けて大きな鉄輪にのり網を巻きつけてのり種を付着させる陸上採苗が進んでおり、愛知県下の一部でも17日から18日に掛けて陸上採苗の作業が進んでいます。

西日本地区では、空梅雨で降雨量が少なく、8月末から9月初めにかけて部分的に集中降雨がありましたが、上流のダムの水量が枯渇状態で、河川への流量は降雨量に比べて多くはありませんでした。しかし、その後断続的な降雨で河川への流量は通常よりやや多くなっています。

降雨時期には気温もやや下がりましたが、9月中旬から再び日中30℃近い日が続いています。こうした中、九州有明海では、のり漁場に張込むのり網を支える、支柱の建て込みが始まっています。

支柱は25年程前までは、本竹を山から切り出して運んでいましたが、いまはグラスファイバー製のポールです。福岡、佐賀、熊本3県の有明海の漁場に建てられる支柱についてはNo.6で詳しく書きましたが、有明海全体で約424万本の支柱が建てられます。その支柱に張込まれるのり網の枚数は、約64万枚になります。

有明海での支柱立て込み風景(左右とも佐賀県有明海ののり漁場)

11月初めから3月にかけて佐賀空港に降り立つ飛行機は福岡県有明海の上空から低空飛行にはいるので、窓から海を見下ろしますと黒々としたのりの縞模様を見ることが出来ます。また、今年の12月頃には佐賀空港への着陸寸前にのりを天日干しにした、碁盤目模様の景色を見ることが出来るかも知れません(南川副地区ののり漁家には産地をアピールする風景を作って頂くようにお願いをしてありますが如何相成りましょうか)。

さらに、熊本県宇土市の住吉、網田(おうだ)の両漁協には、熊本から三角駅まで走る観光列車「A列車」の車窓から見えるようにのりの天日干し風景を演出し、「日本の渚百選」「日本の夕日百選」に選ばれている「御輿来(おこしき)海岸」を一段と引き立てるのり産地PRの企画をお願いしているところです。しかし、のり養殖漁家にとっては最も忙しい時期だけに、実行出来るかどうか大変微妙なところです。

2 見えて来たのり産業の課題

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