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リレーエッセイ 2017・春
海藻の粘質物 1/2/天野 秀臣
はじめに
図1. 粘質物をもつ海藻の一例
図1. 粘質物をもつ海藻の一例
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3月中旬を過ぎると毎年桜の開花予想がテレビや新聞で目に付くようになり、北国以外の多くの地域で3月下旬から4月上旬に桜が満開となります。桜は今年も春が巡ってきたと実感させられる花の一つです。一方、海藻には花が咲きませんが、私たちになじみの深いワカメは冬から春になるころ成熟し、胞子を出す準備が始まります。3月から4月頃の鮮魚売り場には、生ワカメの黒褐色の葉体と一緒に生のメカブが並びます。このメカブを見ると、海にも春が訪れてきたことを感じます。メカブはワカメの葉体の下部の茎の部分にできる胞子を出す生殖器官です。このメカブは粘質物(粘液)をたくさん出します。ワカメのメカブだけではなく、海藻は一般にたくさんの粘質物を持っています。メカブ以外でも粘質物の多いことで有名な海藻は、褐藻類のコンブ類、モズク、アカモク、アラメ、カジメ、紅藻フノリなどがあります。細かく切り、調味液と一緒にカップ入りで売られているモズク、メカブ、アカモクには粘質物がたくさんあるのを見た人も多いことと思います。これらの海藻よりはかなり少ないですが、ノリにも粘質物があります。図1に粘質物をもつ海藻の一例としてスサビノリ、ワカメとメカブを示しました。

海藻や野菜の粘質物
表1. 身近な海藻と野菜の粘質物
表1. 身近な海藻と野菜の粘質物
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海苔の粘質物は多糖類で、ポルフィランと名前がついています。コンブやワカメなど褐藻類の粘質物は、多糖類のアルギン酸と多糖類のフコイダンが混在したものです。たまに、海苔の粘質物をフコイダンと間違って紹介している例がありますが、海苔にはフコイダンは存在しません。その他の海藻の粘質物も多糖類で、表1に示したようなそれぞれ固有の名前がついています。一方、野菜にもヤマイモ、サトイモ、オクラ、モロヘイヤのように粘質物をたくさんだすものがあります。多くの野菜の粘質物は、多糖類および多糖類とタンパク質が結合したものとが混在したものです。野菜の種類によって多糖類もタンパク質も構造が異なる複雑なものです。図2に粘質物でよく知られた野菜の例を示しました。オクラは夏に、ヤマイモ、サトイモは秋に収穫するので、メカブのように春の訪れを感じさせるものではありません。

図2. 粘質物をもつ野菜の一例
図2. 粘質物をもつ野菜の一例
※図をクリックすると拡大します

私は、特にメカブのシャキシャキした食感と粘質物による滑らかさが好きです。海藻や野菜の“とろとろ”、“ねばねば”した粘質物を好むのは、日本人に特有なものなのか、欧米人はどうかとかねてから知りたいと思っていました。そこで、日本食が好きな北米在住の米国人に問い合わせましたところ、“ねばねば”した食品はとても食べる気がしないという返事でした。しかし、米国にはガンボスープと言われるスープがあります。米国南部メキシコ湾沿いの州でポピュラーな料理でいろいろなレシピがありますが、いずれも濃い“だし”、鶏肉あるいは魚介類などのタンパク質、セロリ、ピーマン、玉ねぎなどの野菜、スライスしたオクラが入っています。特徴的なことは、このスープには“とろみ”がついていて、“とろみ”の原料はスライスしたオクラです。オクラ以外にクスノキ科サッサフラス属の木の葉の粉末(フィレ・パウダー)を使う場合もあるそうです。この場合のオクラは “ねばねば”食品として使用されずに、あくまでも“とろみ”をつけるために使用しています。日本国内でも食べられる店はかなりの数あります。また、エジプト原産と言われ、日本でも栽培・市販されているモロヘイヤを刻んでスープに入れた“とろみ”のある料理も外国にはあります。

日本食の“ねばねば”料理の代表的なものである“とろろ”のように粘度が高いものは嫌うが、スープのように薄い“とろみ”ならば食べるのでしょうか。こう考えると、日本の“ねばねば”食品が嫌いという欧米人も、単に食習慣の違いで慣れていないということなのかもしれません。

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